人気が荒れる[2003/4/12]

 祝!Winks 今季初勝利。

 勝負事は勝つと負けるで気分が大違い。特に、実際プレーするわけではない監督としては勝ちにこだわることが多い。今年からのチーム訓、「(草野球は)打って勝て!」できたことは無情の喜び。

 野球のことはさておき、昨今の世情から、3つほど・・

 (1)イラク戦争終結へ

 イラク戦争があらかた終息を迎えたようだ。以前(NO96 戦争の正統性、NO91 イラクのことなど)指摘したように、どうも「不可解な戦争」という印象が抜けない。

  1. 戦争そのものの是非(人道的、哲学的、感情的な見地から)
  2. 何のための戦争
  3. 戦争をやる必要性があるのか?ないのか?
  4. 戦争の正統性
  5. イラクの人たちが本当に「サダム・フセイン排除」を望んだのだろうか?
  6. イラクの人たちが本当に「アメリカ型、自由と民主主義」を望んだのだろうか?
  7. 決定的な「軍事力の差(横綱と幕下以下、手合い違い)」のある戦争が成立するのか?
  8. 義勇兵や自爆テロ志願者をおくる他のパレスチナ人
  9. 「人間の盾」としてバグダッドに向かう若者
  10. 戦況により刻々変化する株価や、為替(ドル・円・ユーロ価格)、原油価格
  11. 人間同士の殺しあい=戦争を、見ている人、報道する人

 など。

 とりわけ今回のイラク戦争ではでに戦ったのは、各国の政治家やマスコミ各社の「情報戦」。

  1. 情報操作(「我田引水」的な情報を流す)
  2. 従軍記者(マスコミによっては「女性記者」を採用)
  3. あらかじめ空爆が予想されそうなところへ固定カメラを設置
  4. 「大本営発表」的なイラク情報相の発言
  5. 捕虜の映像を放映
  6. マスコミ関係者への米軍の爆撃(誤爆?)
  7. 憶測記事、「やらせ報道」、など

 さすがに、あまり残忍な殺傷シーンや血だらけの死体などはテレビなどでは控えているようだが、週刊誌などでは写真が載っている。「一般市民には最小限の被害」を目標にしていたアメリカのピンポイント爆撃も、命中精度が100%とはいかないようだ。中には、民間の女性や子供を殺傷することもあったと伝えられる。

 そんな「悲惨なシーン」を批難しようとするアナウンサーの意見に答えた軍事評論家:江畑謙介氏のコメントが・・

 「それが戦争というものです

 今回のイラク戦争でも戦闘が激しくなると、NHKで戦況を解説した江畑謙介氏。戦争が始まると欠かせない人材のひとり。

 

 米軍のバグダッド制圧後、あらかた戦争は終わったようだが、略奪や暴行・放火などが横行し、バグダッド市内ではまさに、「無政府状態」に。このへんの事情の典型が、歴史的には「二条河原落書」に・・

二条河原落書(にじょうがわららくしょ)

1334年(建武元)/京都二条河原に立てられた政治社会の批判落書。

当時は南北朝の戦乱で京都(その当時は当然首都)が荒廃。

全88句。当時の社会をかなり詳細に且つ鋭く指摘しており、7・5調の文言もうまくできている落書史上の一大傑作。「建武年間記」に所収されている。

 此比(このごろ)都ニハヤル物。夜討、強盗、謀綸旨(にせりんじ*1)。召人(めしうど*2)、早馬(はやうま)、虚騒動(そらそうどう)。生頸(なまくび*3)、還俗(げんぞく*4)、自由出家(*5)。俄大名(にわかだいみょう)、迷者(まよいもの)、安堵(あんど*6)、恩賞、虚軍(そらいくさ*7)。本領ハナル丶訴訟人。文書入タル細葛(ほそつづら)。追従(ついしょう*8)、(ざん)(*9)、禅律僧(*10)。下克上スル成出者。器用の堪否(かんぷ)沙汰モナク(*11)。モルル人ナキ決断所(*12)。キツケヌ冠上ノキヌ。持モナラハヌ笏(しゃく)持テ。内裏(だいり)マジハリ珍シヤ。賢者ガオナル伝奏ハ、我モ我モトミユレドモ、巧ナリケル詐(いつわり)ハ・・(中略)・・誰ヲ師匠トナケレドモ。遍(あまねく)ハヤル小笠懸(こかさがけ)。事新シキ風情ナリ。京鎌倉ヲコキマゼテ(*13)。一座ソロハヌエセ連歌。在々所々ノ歌連歌。点者(てんじゃ*14)ニナラヌ人ゾナキ。

『建武年間記』より

 

*1:綸旨

天皇が蔵人(くろうど)に書かせた指図書

*2:召人

囚人。捕らえられた人

*3:生頸

斬られた生首

*4:還俗(げんぞく)

僧から俗人にもどること

*5:自由出家

主人の許可を得ない出家。*3:還俗とともに当時は好ましくない行為とされた

*6:安堵

土地の所有権を公認されること。

*7:虚軍

戦いもしないのに戦いをしたといつわること

*8:追従

権力者にこびへつらうこと

*9:讒(ざん)人

ウソをいう人

*10:禅律僧

後醍醐天皇の側近として権勢をふるい、政務に介入した禅僧や律僧

*11:器用の堪否(かんぷ)沙汰モナク

能力の有無も考えず

*12:決断所

建武の新政(1333)の後できた、雑訴決断所の略。民事裁判所

*13:京鎌倉ヲコキマゼテ

京の公家風と鎌倉の武家風がまじりあって

*14:点者

和歌(連歌)の優劣を判定するもの

この、「二条河原落書」を元歌にして、余禄(毎日新聞)、天声人語(朝日新聞)等で替え歌がつくられることでも有名。

 此比(このごろ)貘脱土(バグダッド?)ニハヤル物。夜討、強盗、謀情報(にせじょうほう)。米兵(べいへい)、戦車(タンク)、自爆テロ。・・

 「勝てば官軍」と言わんばかりのアメリカでは、イラク復興支援の枠組み・人選・経済利権などが取りざたされているようだが、戦争(壊すこと)にも莫大な経費がかかったようだが、新たな秩序や新しい政治・経済の復興(立て直すこと)にもお金がかかる。

 終戦後は、第2次世界大戦(太平洋戦争)後の日本で設置された、GHQのようなもの(イラク復興支援機構?)を想定し、イラク統治に乗り出す。ただ、この「イラク統治」にもアメリカの思惑が見え隠れする。

  1. アメリカ主導?国連主導?
  2. 中東に「新たな親米政権」樹立
  3. アメリカ型自由・民主主義国家の建設(押し売り?)
  4. 経済利権

 など。

 今回は軍事力の行使という「北風」の論理でイラクを制圧。終戦後もしばらくは米軍が駐留して軍主導型でイラク統治が進むようだ。「北風の論理」だけでは民心をつかむことは難しい。「太陽」の論理も必要。

 なお、本日のタイトル「人気(じんき)が荒れる」を選んだ動機となったのが以下の文章による。

 勅撰集は宮廷の文化の力を誇示するために編まれた。一応はそう言って差し支えない。しかし大事なのは、その文化的な力がただちに政治的な力として働くという事情である。一般に国の政治というのは、素朴な意味での政治-つまり軍事力警察力だけでおこなわれるものではあるまい。そんなことをすれば大変なものいりだし、人気(じんき)が荒れる。そこで当局は文化的政策によってあるいは威圧し、あるいは信望を得ようとするのである。たとえばローマ帝国の見世物がそれだ。わが王朝の場合、その文化政策の中でいちばん目立つのは寺社の建立だが、もっと安上がりで効果も馬鹿にならない手としては勅撰集の編纂があった。(丸谷才一著「日本文学史早わかり」より)

※原文「旧仮名遣い」を「現代仮名遣い」に改めた

勅撰集は宮廷の文化の力を誇示するために編まれた

一説には「怨霊鎮魂」のために撰集された勅撰集もある

その文化的な力がただちに政治的な力として働く

日本の「言霊(ことだま)信仰」がその典型

この言霊(ことだま)信仰の事情は、井沢元彦氏の「逆説の日本史」に詳しい。

ローマ帝国の見世物

ローマのコロセウムの格闘技

当局が文化的政策によってあるいは威圧し、あるいは信望を得ようとして建立された寺社

鎮護国家を目指した東大寺の大仏

藤原氏の平等院

足利義満の金閣寺

徳川家光の日光東照宮、など

 バグダッドでは今、「無政府状態」に陥っていると聞く。しばらくは、「素朴な意味での政治-つまり軍事力警察力・・」が必要。これから民衆の心をつかむには、「文化的な力=太陽政策」が必要になってくる。

 だが、文化的な力が有効に働くためには、民俗、宗教、最低限の教育や倫理観、共通の文化などを共有していないと機能しない。イラクにおいては、イスラム教の中でもシーア派:スンニ-派の対立。民族的にはクルド族の独立問題。政治的には旧サダム・フセイン体制を支持するバース党の残党勢力や反米組織など「共通する価値観=強いていえばイスラム教のみ」が見つけだすのが極めて困難な状況。

 戦勝気分に酔うアメリカは、戦争には勝ったけれども、その後のイラク統治では手を焼くことになるのではなかろうか?

 

 戦争だけでなくこちらの方も被害が大きい。

 

 (2)香港発重症急性呼吸器症候群(SARS)世界中で猛威?

 香港から始まった、原因不明の新型肺炎が世界中に広がりつつある。蔓延した原因として中国政府当局が、発症の発表を遅らせた(意図的に隠ぺい?)ともいわれる。

 重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome、略して「SARS」)。

 症状は、38度以上の高熱や、せき、呼吸困難などこれまでの肺炎やインフルエンザと似ている。

 医療関係者や患者の家族を中心に感染が広がったため、感染者のせきなどを通じてうつると考えられてきた。

 病原体は特定されておらず、有効な治療薬はまだない。

 空気感染だけに、防ぐのが難しい。大きなマスクをしている映像が香港・上海などからおくられるようだが、「感染者に対する差別視」が問題に。感染経路や病原菌が不特定なこととも相俟って、中国(香港・上海)帰りだけで感染者扱いをすることも。こちらの方でも「人気が荒れる」。

 これはエイズ感染者(HIV保菌者)のこれまでの経験からの話で・・

 「まるで、病原菌扱いされるようで・・。

 日本では政府の発表では「(SARSの流入を)水際で阻止している」というが、このエリアとの交流が深いだけにすでに入ってきていることも十分考えられる。

 また、「政府がこれらの地域に渡航することを遠慮する」よう勧告しているだけに、戦争とも重なって、旅行代理店には「ダブルパンチ」。

 

 最後は身近なところで、名古屋の女性通り魔事件

 (3)名古屋の女性通り魔事件

 2週間ほど前(3/30、31)のことになろうか、名古屋の北区、千種区で女性通り魔が出現。自転車に乗った女性(35~40才?)が20代の女性を殺傷。

 数日後、最初の事件が発生した北区東水切町で、新聞配達の女性が、自転車に乗った女性を疑いの眼差しで見たことからとんだハプニングが。

 犯人扱いされた女性が激昂してこの新聞配達員を追いかけまわす。

 つい先日殺人事件があったばかりなので、警察・マスコミ・近所の住人(ヤジ馬?)で一時は騒然に。身近な所でも「人気(じんき)が荒れる」。

 警察が発表した「2つの似顔絵」でも違いが大きい。連続通り魔でも、必ずしも同一犯とはいえない。そもそも、35~40才の自転車に乗る女性なんてゴロゴロいる。「人を見たらドロボーと思え」とはいうが、まさか「通り魔」とは?

 女性の犯罪も多くなってきているとはいわれるが、まさか「通り魔」とは?

 女性でも通り魔できるようなら、俺だって・・?

 いつ頃から日本もこんな不安な国になってしまったのか。