ボロ市で月の石を買う
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前回に引き続き、世田谷名物の「ぼろ市」の話しです。何か面白いもの、変わったもの出てないかな、と骨董品を見ていると、こんなものまで、というような物が並んでいる。神社のお賽箱やお地蔵さんも売られている。
引き出物や記念品のお皿やカップを並べている骨董の露店を見ていたら、陶器の片隅に小さな四角い箱があるのが目についた。箱の表面は薄汚れてるのですが、中に親指大の黒っぽい塊が入っている。何だろう?
店の女の子に聞くと、月の石だという返事。月の石(?)って言ってもねー、それがここにあるはずないよ、絶対。値札のシールを見ると、ラーメン、プラス餃子ぐらいの値段。
確か、アポロ計画で月から持って来た石を小分けしたものが日本にもお裾分けとして贈られたはずですが、ごく微量だったはず。
早々、買いました。ケースの汚れを拭き取ると、中にあるのは黒い小石でした。
箱のプレートには、「 NASA Johnson Spacecraft Center Houston Texas 」とあります。英文の説明もあって、1969年にアポロ11号が月に着陸して持ち帰ってきた月の石のレプリカでした。誰かがアメリカのお土産として買ってきて、長い間、埃を被っていたもののようです。
ケースの箱を開けると、小石は真っ黒い溶岩のようなもので、表面を覆うように気泡の穴かついている。手触りは、穴の跡がガワガサした感触。富士山の麓にいけば、転がってそうな岩の破片と言ってもいいです。
もともと地球と月はひとつだったと考えられている。というのは、約46億年前に地球が出来て間もないころ、火星ぐらいの大きさの惑星が原始の地球にぶつかったらしい。地球の半分ぐらいの大きさのものが当たったのだから、ものすごい衝撃だったはず。そのとき、地球内部のマントルが宇宙に飛び出して月になったといわれている。
事実、アポロ宇宙船で月から持ってきた石──つまりこの黒い小石の本物の方、その酸素同位体比は地球のマントルとほとんど同じだったそうです。
レプリカを見て、触ってるうちに、なんだか月が身近になってきた、そんな気分。印刷物で月の石の写真を見てても、こういうリアリティ、感じられなかった。実感というのは、見るだけでなく、触ったり、匂いを嗅いだり(この場合は、無臭ですが)して、こういうものなんだな、とつかめるもののようです。
この実感、月もヒマラヤやサハラ砂漠と同じような、ただ距離が遠いだけの具体的な土地なんだな、という感じになってくる。結局、人間の感覚器官が月の地面まで延びたということなのではないか。
昔の人たちが月を見て詩を詠んだり、絵を描き感じていた神秘的な感覚が消えていくのは寂しいと思う一方、人間は、こんなふうにして自分たちの世界を広げてきた、いわば人間の性(さが)なんだな、という気もする。
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